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キャリアアップ助成金【正社員化コース】」変更点・予算推移と実務上の注意— 令和8年度(2026年度)概算要求から読む —

はじめに
本記事は、厚生労働省の令和8年度概算要求資料等をもとに、正社員化コースに限定して整理した解説記事です。要点・予算の推移・制度改定で実務に直結する注意点を明確にまとめます。根拠は本文末に示します。
要約
- 令和8年度概算要求では、キャリアアップ助成金の「正社員化コース」+「賃金規定等改定コース」を合わせて554億円が概算要求枠として示されています(正社員化コース単独の明示額は公表されていません)。厚生労働省
- 制度面では(A)非正規から正社員化時の「賃金3%以上引上げ」を重視する方向、(B)非正規労働者に係る情報開示を行った事業主への新たな加算創設などの記述があり、正社員化に「処遇改善(賃上げ)」を結びつける政策設計が強まっています。
- 実務上は「届出タイミング」「賃金規程の明文化」「社会保険加入のタイミング」「証憑管理」「加算要件の厳格化リスク」への対応が最重要です。概算要求は要求段階であるため最終予算での変更リスクも念頭に入れて計画してください。
1)予算の推移(正社員化コースに関わる主要数値の整理)
※政府資料は「正社員化コース単独の最終的な配分」を明示していないことが多く、以下は公表された概算要求での区分をベースにした整理です。
| 年度(会計年度) | 関連記載・概観 |
| 令和6年度(2024年度) 当初予算 | キャリアアップ助成金(全体)の規模は大きく、制度拡充が入った年。正社員化コースの拡充(2期化など)が行われた。 |
| 令和7年度(2025年度) 概算要求 | キャリアアップ助成金全体の要求は縮小傾向(例:全体で962億円要求の報道等)といった報道がある。制度要件の見直し・支給区分変更が議論。 |
| 令和8年度(2026年度) 概算要求 | 「キャリアアップ助成金(正社員化コース・賃金規定等改定コース)」として554億円が概算要求に計上。キャリアアップ助成金全体の要求は1,000億円台前後の表示もある。 |
解説:令和6年度に正社員化コースの支給枠や仕組み(例:中小企業での支給額拡充、2期化)が実務上の大きな改定だった一方、そこから年度を追うごとに「概算要求の総枠」が増減しています。令和8年度は「正社員化+賃金規定改定」をパッケージして554億円の概算要求枠が示され、正社員化コースの政策優先度は依然高いことが確認できます。
2)令和8年度概算要求で読み取れる主な変更ポイント(正社員化コースに関して)
1.賃上げ要件の位置付け強化
正社員化コースは「正社員転換とともに従前より賃金を3%以上増加させた場合」を想定した記述が確認でき、単なる雇用形態変更だけでなく処遇改善(賃上げ)を重視する方針です。
2.新たな加算創設(情報開示加算)
概算要求には「非正規雇用労働者に係る情報開示を行った場合の加算措置の創設」と明記されています。企業側の透明性を促す新たなインセンティブです。
3.正社員化コースと賃金規定等改定コースのパッケージ化
554億円という枠は両コースを合わせた額であり、正社員化は賃金規定改定(制度整備)とセットで実施されることが想定されやすいという政策設計です。
4.(背景)中小企業向けの追加加算等、地域支援強化の方向
概算要求全体の文脈では小規模事業者の賃上げ支援強化も明記されており、正社員化コースでも中小企業に配慮した加算等が続く可能性があります。
3)実務(企業側)で必ず押さえるべき注意点
A. 届出・申請のタイミングを厳守する
正社員化の実施前(原則:転換予定日前日まで)にキャリアアップ計画の届出が必要です。概算要求で要件が変わると様式や届出内容も変わる可能性があるため、実施直前に必ず最新版を確認してください。
B. 「賃金3%以上」の証明設計を先に行う
概算要求が賃上げ併用を強調しているため、転換後の賃金テーブル、基本給の算出根拠、算入手当の取り扱いを契約書や就業規則に明記し、賃金台帳で増額の根拠を示せるようにしておくこと。
C. 情報開示加算に備えた社内整備
新設される可能性のある「情報開示」加算を見越し、非正規労働者の労働条件(労働時間・賃金・福利厚生等)に関する社内データ整備と開示ルールを作っておくと加算適用の余地が増えます。
D. 社会保険加入と転換のタイミング管理
正社員化に伴う社会保険(健康・厚生年金等)加入の時期と助成要件は密接です。加入手続きのタイミングがずれると助成対象外となるケースもあるため人事・総務でフローを事前に決めておいてください。
E. 書類・証憑の保管(立証責任は事業主)
支給申請・監査の際に必要な書類(賃金台帳、出勤簿、雇用契約書、資格取得届の写しなど)は各々の起算日から5年以上の保管を推奨。近年、書類不備で不支給となる事例が増えています。
F. 予算・制度変更リスクを織り込んだ設計
概算要求は「要求」段階。国会で削減や要件変更が入り得ます。助成金を前提に恒久的な人件費増を設計するのは危険です。助成が出ない場合でも持続可能な転換プランをつくっておくこと。
4)最後に
令和8年度概算要求は「正社員化」それ自体を評価するよりも、「正社員化による処遇改善(賃上げ・制度整備)」を重視する方向を示しています。企業は助成金を“もらうため”の手続き的対応だけでなく、労働条件の透明性向上・賃金制度の中長期設計・社会保険適用の確実な実行という観点で準備を進めるべきです。概算要求は最終的な予算で変わり得るので、複数シナリオ(拡充案・保守案)での対応計画を作成することを推奨します。






