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危険な社労士業務代行?税理士逮捕事件から再確認しよう―税理士が行ってはいけない社労士業務―

1. はじめに:税理士が捕まる事件がありました。
2025年10月20日、社会保険労務士(以下、社労士)の資格がないのに社労士の業務を有償で行った疑いで、大阪の税理士と行政書士が社労士法違反容疑で逮捕されたと報じられました。報道では、2022年4月〜2025年8月に少なくとも100社・約340件で約400万円を受領した疑い、直近では3社の申告・還付手続計4通で計4万円といった具体が伝えられています(神戸新聞NEXT(共同通信)/毎日新聞)。
税理士事務所がクライアント企業の労務相談を受けるという例は、実際によくあります。
しかし今回の事件により、社労士と税理士の業務の境界がより一層意識されることでしょう。
知らず知らずのうちに法律違反をしていた、または違反を助長してしまったということがないように、しっかりとそれぞれの業務を理解しておく必要があります。
本記事では事件の概要から、税理士業務と社労士業務を解説します。
2. 社労士の独占業務とは:社労士の業務説明
社会保険労務士法(e-Gov)では、次が定義されています
- 第2条1号:労働・社会保険諸法令に基づく「申請書等の作成」
- 第2条1号の2:申請書等の「提出代行」
- 第2条1号の3:申請・調査等に関する「事務代理」
- 第2条2号:労社保諸法令に基づく「帳簿書類の作成」(例:賃金台帳・出勤簿)
- 第2条3号:労務・社会保険等に関する「相談・指導」(ここは独占ではありません)
また第27条は、社労士(社労士法人)以外の者が「報酬を得て」上記1号〜2号の事務を「業として」行うことを禁止しています。参考:厚労省(労基法等の主要様式)
3. 事件の概要―なぜ税理士は逮捕されたのか―
今回の事件の概要は以下の通りです。
大阪府警は、無資格で社会保険労務士の業務をしたとして、今月20日に大阪市の税理士法人「池上会計」天満橋事務所の代表で、税理士の池上和弘容疑者(39)と、法人の従業員で行政書士の広畑国明容疑者(46)を社会保険労務士法違反容疑で逮捕しました。
生活経済課によると、2人は共謀して6~7月、社労士資格がないのに、顧問先3社からの依頼で計4万円の報酬を得て、大阪労働局などへの労働保険の申告業務を代行した疑いが持たれています。昨年の10月に大阪府社会保険労務士会からの申告で不正の疑いが浮上しました。
府警は今年9月の家宅捜索で押収した資料などから、池上容疑者らが2022年4月以降、同様の業務を340件ほど引き受け、計約400万円を得ていたとみて調べています。(朝日新聞)
先ほど説明したように、労働保険の申告代行は社労士の独占業務であるため、上記は法律違反となります
4. 税理士の付随業務の範囲:違法になる場合とならない場合を説明
税理士が社労士領域に触れられるのは、「税額の計算・確定に直接必要な範囲に限る『付随業務』」のみです。特に「提出代行」と「事務代理」は付随に含まれない(=税理士はできない)こと、また「年末調整は税理士業務」であることが、2002年の日税連×社労士連「付随業務の範囲に関する確認書」で明記されています (「税理士又は税理士法人が行う付随業務の範囲に関する確認書」)
5. OK・NGコーナー:このケースは〇/×(10パターン)
- 税理士が「雇用保険の資格取得届」を作成(提出は顧問先)… ×
理由:作成自体が第2条1号=独占。無資格者の有償・反復は第27条違反。 - 顧問先(事業主側)が自分のアカウントで作成・提出… 〇
理由:本人提出は可。外部受託が作成・提出を担えば独占業務。 - 無資格BPOが36協定届を作成し電子申請まで… ×
理由:作成・提出代行は独占。電子申請も資格者運用が前提。
関連:厚労省通達PDF /e-Gov案内 - 税理士が年末調整・法定調書を作成・提出… 〇
理由:税理士本務。社労士が有償で行うと税理士法違反(確認書)。 - 賃金台帳「代行作成」… ×
理由:法定帳簿の作成は第2条2号=独占。 - 給与計算のみ(集計・控除計算・明細発行)を請け負う… 〇
理由:給与計算は独占外。ただし申請書作成・提出に踏み込まない設計が必要。 - 税理士が算定基礎届・月額変更届を作成(提出は顧問先)… ×
理由:いずれも第2条1号の「作成」に該当。無資格の有償作成は違法。 - 就業規則の作成受託と労基署届出まで一括で依頼… ×
理由:届出書の作成・提出は第2条1号・1号の2=独占。 - 税理士が年末調整のため社保料控除証明を回収・一覧化・転記… 〇
理由:税額確定に直接必要な事務として付随の範囲。ただし提出代行・事務代理は不可(確認書)。 - 無資格者が雇用関係助成金の申請書を作成・提出… ×
理由:助成金申請の作成・提出代行は独占。提出代行の留意事項:日本年金機構
(関連様式・運用例:厚労省主要様式 /提出代行通達/日本年金機構の留意事項)
6. 社労士業務ボランティアをなくそう(PR)
中小企業では税理士のみと顧問契約を結んでいることが多いため、会社のあれこれをすべて税理士に相談するケースはよくあります。
実際、顧問先企業1社あたりにつき約1時間/月は税理士の本業以外の相談を受け、その大半が人事労務の相談であるというデータがあります。1職員あたり顧問契約を30社と締結している場合、約30時間を本業と外れた相談に割いていることになります。さらにそのうち50%が人事労務相談であると仮定すると、月に約15時間は社労士業務である労務相談に占められます。
しかし、会計事務所は有償で社労士業務を行うことができないため、無償のボランティアで社労士業務を行っています。そのうえ、無償で行っているから合法と思い込んでいて、実は気がつかないうちに違法で社労士業務を行ってしまっているリスクもあるのです。
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7. まとめ:社労士と税理士の業務の境界をしっかりと理解しよう
・事件のポイントは、無資格で「作成・提出」を業として有償で実施した疑い。
・社労士法第2条(作成・提出代行・事務代理・帳簿作成)と第27条(無資格業務の禁止)を厳格に順守。
・税理士の付随業務は「税額確定に直接必要」な範囲のみ。提出代行・事務代理は不可、年末調整は税理士業務。
8. 引用・出典
・法令:e-Gov法令検索「社会保険労務士法」(第2条・第27条 等) https://laws.e-gov.go.jp/law/343AC1000000089
・ガイド/運用:厚労省・労基法等の主要様式 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudoukijunkankei.html / 厚労省通達:提出代行の電子申請運用 https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000756058.pdf / 日本年金機構:提出代行に関する留意事項 https://www.nenkin.go.jp/denshibenri/oshirase/sharoushi/syarousiteisyutu.html
・付随業務の線引き:日税連×社労士連「付随業務の範囲に関する確認書」(2002/6/6) https://www.nichizeiren.or.jp/suggestion/siryo-10/96.pdf
・事件報道:神戸新聞NEXT(共同通信) https://www.kobe-np.co.jp/news/zenkoku/compact/202510/0019611755.shtml / 毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20251021/ddl/k27/040/239000c / 373news https://373news.com/news/national/detail/2025102001001987/ / 日本行政書士会連合会:会長声明 https://www.gyosei.or.jp/news/20251022




